JRA-25アトラス > 作図方法や要素の解説

作図方法や要素の解説

  平面図や断面図は、年平均、季節平均、月平均の平年値の図を掲載しており、年平均データについては、1979〜2004年の26年間のデータから計算した標準偏差も掲載しています。季節は、熱帯低気圧の図を除いて12−2月、3−5月、6−8月、9−11月の4つに分けています。掲載している図の多くは、6時間毎に存在するJRA-25の解析値や予報値を単純に平均して作成した、月平均値の累年値および月別平年値から描きました。描画の際に6時間値の単純平均値を使わなかった要素や、このアトラス用に特別に計算をした要素などについて、以下にその内容を記します。
  なお、多くの図は解析予報モデルのT106ガウス格子の値から描画しましたが、降水量予報値とGPCPとの比較など一部の図は、2.5度等緯度経度格子に内挿した値から描画しています。また、それぞれの要素の主な極大点・極小点にその値を入れた図も作成しています。

日最高気温、日最低気温、日最大風速

  これらの要素は、6時間毎に存在するJRA-25の6時間予報値のデータから作成しました。具体的には、00、06、12、18UTCを初期値とする4つの6時間予報値の値を同じ1日のデータとして扱っています。従って、ここで用いる1日は協定世界時における1日です。
  26年間の各日に対して、4つの6時間予報値からそれぞれ最高気温と最低気温を読み出し、その中の最も高い/低い温度を日最高気温/日最低気温としました。同様に4つの予報値のモデル最下層面の最大風速の最大のものを日最大風速としました。これらをそれぞれ月平均した値から、日最高気温、日最低気温、日最大風速を描画しました。

日降水量の月最大値

  日最高気温などと同様に、00UTCを1日の区切りとして、1日4回の6時間予報値データから作成しました。26年間の各日に対して、4つの6時間予報値から読み出した降水量を合計して日降水量とし、その月最大値を12か月26年分求め、日降水量の月最大値の平年値を描画しました。

風速の標準偏差

  風速の標準偏差は、東西風・南北風それぞれについて標準偏差を求め、それらを二乗して平方根をとったものとしました。ただし、「日最大風速」については、大きさのみのデータなので、その標準偏差を示しています。

降水量とGPCPの比較

  GPCPの降水量データは、GPCP version 2(Adler et al., 2003)を用いました。月別降水量をGPCPの月別値で割った値(単位:%)を12か月26年分用意し、それらから図を作成しました。なお、実際の降水量が微量な場合にこの値は非常に大きくなることがあるので、GPCP降水量が0.1mm/day以上の領域のみ、描画しています。

熱帯低気圧の存在日数、熱帯低気圧の領域別積算存在日数

  熱帯低気圧の抽出は、Hart(2003)を参考に以下の手順で行ないました。
  1. 6時間毎の各解析時刻の海面気圧から、緯度経度5×5度の領域で、既定値以上の気圧傾度となる極小点を低気圧擾乱として抽出する。
  2. 抽出された擾乱に対し、移動に関する諸条件(速度、速度変化率、方向の変化)を考慮して経路を判定し、低気圧トラックにまとめる。
  3. 各低気圧トラックのうち、「24時間以内で消滅するもの」「主に陸上に存在するもの」「中・高緯度にのみ存在するもの」を除き、残りを熱帯低気圧トラックとする。
  4. 各熱帯低気圧トラックについて、前線がなく、暖気核構造をもつ時期を抽出する。
  この手順で抽出されたものを熱帯低気圧と判定し、存在頻度を1か月あたりの存在日数を単位として分布図に描画しました。なお、この図については、熱帯低気圧活動の季節変化の特徴を考慮して、季節の区切りを1−3月、4−6月、7−9月、10−12月としています。
  上記の手順で抽出された熱帯低気圧について、熱帯低気圧が多く存在する領域ごとに、月単位・領域別に存在日数を積算し、その時系列図も作成しました。対比のため、ベストトラックデータから作成した積算存在日数のデータも重ねて描いています。なお、Hatsushika et al.(2006)に掲載されている同様な図は、ベストトラックに記録された実際の熱帯低気圧が、再解析データでどの程度表現されたかを示すものであり、このアトラスの図とは異なります。

Q1およびQ2

  Q1およびQ2は、それぞれ見かけの加熱量および見かけの水蒸気減少(見かけの凝結量)です。Yanai et al.(1973)を参考に、6時間予報値の月平均値から、以下の要素を読み出して、どちらも1000hPaから100hPaまで積算して求めました。Q1は、対流性降水による加熱、大規模凝結による加熱、長波放射による加熱、短波放射による加熱、鉛直拡散による加熱を合計しています。同様に、Q2は、対流性降水による加湿、大規模凝結による加湿、鉛直拡散による加湿を合計して負の符号をつけました。

流線関数と速度ポテンシャル

  流線関数は非発散風の分布を表すもので、高気圧性の循環が見られる場所は北(南)半球では正(負)の値となります。一方、速度ポテンシャルは大規模な発散・収束を表し、正(負)の値の極大(小)値となる場所が収束(発散)の中心となっています。流線関数と速度ポテンシャルは、発散と収束が顕著に見える面である200hPa、850hPaの等圧面と、350K、300Kの等温位面について掲載しています。ただし、300K面は、地面下となる格子があって流線関数と速度ポテンシャルが求められない場合が多く、標準偏差は求められませんでした。

500hPaにおける高周波変動の単位質量あたりの運動エネルギー

  気象庁では、総観規模擾乱(移動性高・低気圧)の活動度の監視にこの要素を用いています。500hPa高度における6時間毎の解析値の風の東西成分、南北成分に対して、ランチョスフィルター(Duchon, 1979)を用いて周期2〜8日のバンドパスフィルターを施し、それらを二乗して足し合わせ、1/2をかけて求めています。

対流圏上層における東向き運動量の北向き輸送量、850hPaにおける熱の北向き輸送量

  地球の大気や海洋の様々な運動のエネルギーの源は、太陽放射です。地球全体で見た場合、入射する太陽放射量と温度に応じて射出する長波放射量はバランスして放射平衡の状態になっていますが、緯度帯別に見ると、赤道付近では入射超過、極付近では射出超過の状態となっています。すなわち、それぞれの場所では放射平衡になっていません。これは、赤道付近から極方向に向かって熱や運動量が輸送されているからです。
  このアトラスには、気象庁が気候系監視に用いている「対流圏上層における東向き運動量の北向き輸送量」と「850hPaにおける熱の北向き輸送量」を掲載しました。これらは、Newell et al.(1972)の考え方に沿って計算しています。「子午面循環」による輸送は1か月平均の帯状平均によるもの、「定常擾乱」による輸送は1か月平均の帯状平均からのずれによるもの、「非定常擾乱」による輸送は1か月平均からのずれによるものと定義しています。なお、東向き運動量の北向き輸送量は、500hPaから100hPaまで積分して求めました。また、「北向き輸送量」としているため、運動量や熱が南に向かって輸送される場合には負の値となります。

MJO指数

  熱帯において対流活動の活発な領域が30〜60日をかけて地球を一周する現象があり、これは季節内振動、あるいは発見者の名前からマッデン-ジュリアン振動(MJO:Madden-Julian Oscillation)と呼ばれています。Wheeler and Hendon(2004)がこの現象の監視のために定義したMJO指数を参考に、以下の2点を変更して、このアトラスに掲載しました。
  1. 200hPa速度ポテンシャル(Wheeler and Hendon(2004)では外向き長波放射量を使用)、200hPa東西風、850hPa東西風を用いて多変量EOF解析を行なった。(EOF:Empirical Orthogonal Functions、経験直交関数)
  2. ENSO(次のSOIの解説を参照)変動成分を取り除くために、NINO.3(基準値)を用いた(Wheeler and Hendon(2004)ではインド洋から太平洋の月平均SSTの第1主成分)。
このようにして求めたEOF第一主成分と第二主成分の規格化したスコアをそれぞれRMM1、RMM2とし、それらを二乗して足し合わせた値の平方根を図に描画しました。なお、短時間の変動を取り除くための作業の都合上、EOF解析の対象期間は1980〜2003年としています。

SOI、規格化したSOI

  エルニーニョ/ラニーニャ現象は、太平洋赤道域の中央部(日付変更線付近)から南米のペルー沿岸にかけての広い海域で海面水温が平年に比べて高く/低くなり、その状態が1年程度続く現象です。一方、海面気圧について、南太平洋東部で平年より高い時にはインドネシア付近で平年より低く、南太平洋東部で平年より低い時にはインドネシア付近で平年より高いという、シーソーのような変化をしていることが20世紀初頭から知られており、南方振動と呼ばれていました。現在では、この南方振動とエルニ−ニョ/ラニーニャ現象は、大気と海洋が密接に結びついた同一の現象のそれぞれ大気側、海洋側の側面として認識されており、エルニーニョ・南方振動(ENSO:El Nino and Southern Oscillation)と呼ばれています。
  南方振動指数(SOI:Southern Oscillation Index)は、ENSOの監視に用いられる指数で、フランス領ポリネシアのタヒチとオーストラリアのダーウィンにおけるそれぞれの月平均海面気圧偏差の差で表されます。ここでは、西経150.0度、南緯17.5度の格子の海面気圧をタヒチの、東経130.0度、南緯12.5度の格子の海面気圧をダーウィンの海面気圧と見なしてSOIを計算しました。また、タヒチの海面気圧偏差をその標準偏差で割ったものとダーウィンの海面気圧偏差をその標準偏差で割ったものの差を求め、更にそれをそのものの標準偏差で割って規格化したものも描画しました。後者の規格化したSOIの計算方法は、気象庁で現業的にENSOの監視に用いているSOI(監視用SOIと呼ぶ)の計算方法と同じです。ただし、実際に用いている監視用SOIの計算には、それぞれの地点の観測値を使うこと、平年値や標準偏差は1971〜2000年のデータから作成していることから、今回の値とは厳密に一致しません。

謝辞

  図の作成には、米国のThe Center for Ocean-Land-Atmosphere Studies (COLA) / The Institute of Global Environment and Society (IGES)で開発されたGrADS(The Grid Analysis and Display System)を用いました。また、国内の気候研究者および電力中央研究所、気象庁の関係者には、アトラスの内容をチェックしていただきました。


参考文献

このページのトップへ